投資の将来シミュレーションにおいては投資するアセットクラスのリスクやリターンを使って行うことになります。
今回は、リターンとリスクを用いて10年後20年後といった将来の運用結果が確率的にどれくらいの範囲に収まるのかをシミューレションする方法を紹介します。
リスクの説明や投資への影響は次の記事で紹介しています。
参考:3分でわかる!投資におけるリスクは標準偏差を知ることで解決!
√T倍法とは?
ルートT倍法は以前紹介した次の記事にあるように、リスクは期間の平方根(=√)で増加することを利用して将来の投資運用結果をシミュレーションする方法です。
数式を示すと年率リスクと月率リスクの関係は次のようになります。
両辺を√12で割ると月率リスクは次のようになります。
なんとなくイメージできたでしょうか?
次に年率リスクと投資期間「T」の関係は次式のようになります
√T倍法の注意点
ルートT倍法を利用するにあたっての注意点があります
- リターン・リスクの算出に使ったデータ期間が短いと精度が落ちる(私はリーマンショックを含めたデータをつかっています)
- リターン・リスクの算出のデータ期間が長すぎてもダメ。(中国のように近年成長が落ち着いてきている国に投資する場合は特に注意)
- 将来予測にあたっては、リターン・リスクに使った期間の経済と同等の状況が続くと仮定している。
4番目は現在の経済状況が今後も続くという仮定になっています。例えばアメリカ株に投資するS&P500であれば、次の記事にも書いたように過去90年間にわたって安定して年率10%のパフォーマンスを残しています。
よって、先進国を中心に投資する場合は、これまでのパフォーマンスが今後も得られると考えて問題ないと考えています。
√T倍法によるシミュレーションの計算方法
リスクと投資期間の関係を理解したところで、次は実際に√T倍法によって、T年後の投資運用結果シミュレーション方法を紹介します。
投資期間をT、T年後の評価額をVT、初期投資額をV0、年率リターンをR、リスクをσとします。
aは信頼確率に従う定数となり信頼確率との関係は下表のとおりです。
a |
信頼確率 (上位から) |
a |
信頼確率 (上位から) |
---|---|---|---|
2.33 | 1.0% | -0.25 | 60.0% |
2.00 | 2.3% | -0.52 | 70.0% |
1.28 | 10.0% | -0.84 | 80.0% |
1.00 | 15.9% | -1.00 | 84.1% |
0.84 | 20.0% | -1.28 | 90.0% |
0.52 | 30.0% | -2.00 | 97.7% |
0.25 | 40.0% | -2.33 | 99.0% |
0.00 | 50.0% |
これらの関係を式にしたものが次式になります。
実際に、投資額1万円、リターン5%、リスク10%、投資期間20年、信頼確率99%で計算をしてみると次のようになります。
(※わかりやすいように単位を表示しています。)
結果は16,200円。つまり、信頼確率が99%なので、20年後の運用結果が99%の確率で16,200円以上となることになります。
信頼確率50%であれば、運用結果が26,600円なので、期待どおりであれば26,600円。どんなに悪くても16,200円と損をしないこととなります。
リターンが5%であっても、リスクが大きくなると20年の投資期間を経てもマイナスになる確率が上がるので注意が必要です。
エクセルによるリターンとリスクの求め方はこちら、
参考記事:3分でわかる!リターンとリスクの計算方法 〜エクセルで計算編〜
リターン5%・リスク10%のシミュレーショングラフ
初期投資1万円をリターン5%・リスク10%で運用したシミュレーション結果を信頼確率ごとにグラフにしました。
リスクが悪く働くため最初の5年ほどは10%以上の確率でマイナスになりますが、それ以降はほぼプラスです。
6年目以降はプラスに転じます。これは最初に示した式にもあるように、リターンはべき乗で増えますが、リスクは期間の平方根でしか増えないためです。
簡単に表現すると、リスクが増えるスピードより、リターンが増えるスピードが早いためです。
下のグラフは同じくリターン5%リスク10%の商品に投資した場合の、リターンを年率換算したものです。調子期間が長くなると、リターンは5%に収束するような結果となります。
リスクとはきちんと理解して上手に付き合うことが必要です。
まとめ:√T倍法のメリットデメリット
この記事で書いたことのまとめもかねてルートT倍法のメリット・デメリットです。
メリット
- モンテカルロシミュレーションなどと比べて、計算が容易(スマホの電卓でできちゃいます)
デメリット
- 過去のリターンとリスクを使うため、経済環境に大きな変化があれば結果にブレが生じる
- リターンとリスクを算出したデータ期間の影響を受けやすい
- モンテカルロシミュレーションよりパフォーマンスが良い計算結果となるため注意が必要
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